ロボット保険とは何か

「ロボット保険」とは、産業用ロボットやヒューマノイドロボットが引き起こす事故・故障・サイバー攻撃・業務停止などのリスクを対象とした保険商品の総称です。従来の機械保険・賠償責任保険の枠組みを超え、AI搭載ロボット特有のリスク——誤作動による人身事故、自律判断による財産損害、学習データの汚染による連続障害——をカバーする新しい保険カテゴリーとして急速に整備されつつあります。

自動車保険が1960〜70年代に自動車の普及とともに市場を確立したように、ロボット保険はいままさに黎明期を迎えています。日本では三井住友海上、東京海上日動、AIUインシュアランス(AIG)が先行して商品開発に着手しており、2025〜2030年にかけて市場が本格化するとみられています。

この変化の最前線に立つのが「ロボット保険アドバイザー」という新職種です。保険知識だけでなくロボット工学・AI・法務の知識を横断的に持ち、企業のロボット導入リスクを包括的に診断・設計できる専門家への需要が急拡大しています。

市場規模の予測

世界のロボット保険市場はSwiss Re(スイス再保険)の調査によると2030年までに年間300億ドル規模に達すると予測されています。日本国内でも、製造業・物流・介護・小売に配備されるロボット台数の急増に伴い、2028年度には保険料収入が1,000億円を超える見通しです。これは新興の専門職としてロボット保険アドバイザーに対する需要が今後10年で急増することを意味します。

ロボット保険の主要カテゴリー

ロボット保険は大きく5つのカテゴリーに分類されます。それぞれがカバーするリスクの性質は異なり、ロボット保険アドバイザーはこれらを組み合わせて最適な補償設計を行います。

保険カテゴリーカバーするリスク対象業種例重要度
製造物責任(PL)保険ロボットの設計・製造上の欠陥が原因の人身事故・財産損害ロボットメーカー、インテグレーター非常に高い
サイバーリスク保険ロボット制御システムへの不正アクセス、データ漏洩、ランサムウェアによる稼働停止製造業、医療、物流非常に高い
機械故障保険アクチュエータ・センサー・電子部品の突発的故障による修理費・交換費全業種高い
事業中断保険ロボット停止による生産ライン・サービスの中断損失製造業、物流、外食高い
第三者賠償責任保険ロボットが第三者(顧客・通行人)に与えた身体的・財産的損害小売、ホスピタリティ、医療非常に高い

ヒューマノイド特有のリスクと補償ニーズ

産業用アームロボットと異なり、ヒューマノイドロボットは不特定多数の人間と同じ空間で自律的に動作します。これにより従来の機械保険では想定されていなかった新たなリスクが発生します。

  • 身体的傷害リスク:歩行中の転倒・接触による骨折・打撲。特に高齢者・子供・車椅子利用者との接触事故
  • 財産損害リスク:自律移動中の什器・電子機器への衝突。作業中の精密機器・貴重品の破損
  • データ漏洩リスク:ヒューマノイドの視覚・聴覚センサーが収集した個人情報・機密情報の流出
  • AIの判断誤りリスク:学習モデルの誤認識・誤判断による誤作動。「プロンプトインジェクション攻撃」による意図しない行動
  • ソフトウェア更新リスク:OTA(Over The Air)アップデートによる突発的な動作変更・機能停止
  • 心理的損害リスク:ロボットの誤動作による精神的苦痛(PTSD等)。法的認知が進みつつある新種のリスク

「AIの判断」は誰の責任か

自律型AIロボットが引き起こした事故の法的責任の所在は、2026年時点で世界各国で法整備が進んでいます。EU AI Actは高リスクAIシステムへの厳格な監査・説明責任を課し、日本でもAI事業者ガイドラインが改訂を重ねています。ロボット保険アドバイザーは保険の知識だけでなく、これらの法規制の最新動向を常にフォローする必要があります。

自動車保険の進化との比較

ロボット保険市場の未来を理解するうえで、自動車保険の歴史は非常に示唆的です。

時代自動車保険の進化ロボット保険の現在・未来
黎明期(1950〜60年代)任意保険のみ。補償範囲が不明確で事故後の係争が多発現在(2026年):任意・商品不統一。補償範囲の議論が継続中
整備期(1970〜80年代)強制加入(自賠責)制度化。損保各社が標準品を整備近未来(2028〜2030年):業種別・ロボット種別の標準商品登場予測
成熟期(1990〜2000年代)テレマティクス(運転データ)活用による個別料率算定開始将来(2030年代〜):稼働ログ・AIモデルバージョンによる動的保険料算定
現代(2010年〜)自動運転対応保険の登場。損害調査のAI化AI損害調査員・スマートコントラクトによる自動支払い

自動車保険の市場が成熟するまでに約40年かかったのに対し、ロボット保険は技術革新と規制整備のスピードが速いため、15〜20年で同様の成熟段階に達すると業界関係者は見ています。今がまさに市場の「整備期」前夜にあたり、専門家の需要が最も高まるタイミングです。

ロボット保険アドバイザーという職業

ロボット保険アドバイザーは、企業・団体がロボットを導入・運用する際に生じる多様なリスクを診断し、最適な保険ポートフォリオを設計・提案・管理する専門職です。単なる保険代理店とは異なり、ロボット工学・AI・サイバーセキュリティ・法務の知識を統合した「リスクマネジメントの総合専門家」です。

具体的な業務内容は次の三層構造で整理できます。第一層は「リスク診断」——企業のロボット活用環境を現場視察・システム監査によって分析し、潜在リスクを定量化します。第二層は「補償設計」——診断結果をもとに複数の保険商品を組み合わせ、保険料と補償の最適バランスを設計します。第三層は「継続管理」——ロボットのソフトウェアアップデート・台数増減・用途変更に応じて保険内容を継続的に見直します。

国内外の主要ロボット保険商品

2026年時点で実際に販売されているまたは開発中の主要なロボット保険商品を整理します。

保険会社商品名・プログラム補償対象特徴
三井住友海上火災保険ロボット総合保険機械故障・第三者賠償・事業中断国内初の協働ロボット対応商品。製造業向けに特化
東京海上日動火災保険ドローン・ロボット賠償責任保険第三者への身体傷害・財産損害ドローンから地上型ロボットまで対応。小規模事業者向けプランあり
損害保険ジャパン(SOMPO)AIロボットリスクソリューションサイバーリスク・PL・機械故障の複合補償稼働データ連携による動的保険料設計(開発中)
AIG(AIU)Robot Liability Insurance自律型ロボットの賠償責任(グローバル対応)多国籍企業向け。クロスボーダー展開に対応
Hiscox(英)Technology & Cyber for Roboticsサイバー攻撃・知的財産侵害・賠償責任英国発。欧州・北米市場向けのRaaS事業者に実績
Munich Re(独)Robotics Insurance Program製造物責任・事業中断・機械故障(再保険)再保険大手。保険会社向けプログラム提供。アンダーライティング基準設定に影響力大

ヒューマノイド専用商品の不在

2026年時点では「ヒューマノイドロボット専用」の保険商品はまだ存在しません。現在は協働ロボット保険や機械保険に特約を加える形で対応するのが一般的です。ヒューマノイドの本格普及が始まる2027〜2028年にかけて、専用商品の登場が見込まれており、この設計に関与できるアドバイザーの希少価値は非常に高いといえます。

アドバイザーの典型的な一日

ロボット保険アドバイザーの具体的な業務イメージを一日の流れで示します。

  • 午前9時〜11時:製造業クライアントの工場を訪問。新規導入予定の協働ロボット(Universal Robots UR10e × 20台)のリスク診断。工場内の動線・人員配置・緊急停止システムを確認し、既存の機械保険との重複・ギャップを洗い出す
  • 午後1時〜3時:物流企業クライアントへの提案書作成。倉庫内AMR(自律走行搬送ロボット)50台の導入に伴うサイバーリスク保険・機械故障保険・事業中断保険の組み合わせプランをExcelとPDF資料で整理
  • 午後3時〜4時:サービスロボット(ホテル案内ロボット)運用中のホテルグループから事故報告の電話。ロボットが宿泊客のスーツケースを転倒させた件につき、第三者賠償責任保険の適用条件を確認し保険会社に連絡
  • 午後4時〜5時30分:EU AI Act改正情報のキャッチアップ。来週の社内勉強会向けにロボット保険への影響レポートを作成

企業はすでにロボットを保険にかけている

「ロボット保険」というと未来の話に聞こえるかもしれませんが、国内の先進企業はすでにロボットフリートに対して保険を掛け始めています。

  • トヨタ自動車:工場の協働ロボット約2,000台を機械保険+事業中断保険で管理。ライン停止1時間あたりの損失(数億円規模)をカバー
  • アマゾン・ジャパン(Amazon):倉庫内Kiva/Proteus AMR群に対してサイバーリスク保険を適用。制御システムへのランサムウェア攻撃シナリオを保険対象として明示
  • ファミリーマート・ローソン:調理補助ロボット(Keenon等)の賠償責任リスクを外食・サービス業向け賠償保険の特約で対応
  • 大和ハウス工業:建設現場の自律移動ロボットに現場賠償保険+機械保険を組み合わせ。高所作業ロボットの墜落リスクを特別付帯

これらの事例が示すように、ロボット保険の市場はすでに存在し、かつ急速に複雑化しています。専門のアドバイザーなしには企業が適切な補償設計を行うことが困難になりつつあることが、この職種の必要性を裏付けています。

求められる知識とスキル

ロボット保険アドバイザーになるために必要な知識は「保険」「ロボット技術」「法務・規制」「リスクマネジメント」の4領域にまたがります。既存の保険業界のプロフェッショナルがロボット技術知識を上乗せするか、ロボット工学の技術者が保険・法務知識を習得するか、二つのアプローチが考えられます。

取得すべき資格一覧

ロボット保険アドバイザーとして活動するために有用な資格を優先度とともに整理します。

資格名主管難易度関連性優先度
損害保険募集人(一般・専門・特種)損害保険協会保険販売の法的資格。必須最高
損害保険プランナー損害保険協会中〜高保険設計の高度資格。顧客信頼に直結
リスクマネジメント実務士日本リスクマネジメント協会企業リスク診断のフレームワーク
情報処理安全確保支援士(RISS)IPAサイバーリスク評価・対策提案の専門資格
機械安全技術者(TÜV認定)TÜV Rheinlandロボット機械安全の国際資格。ISO 10218/TS 15066対応中〜高
生命保険募集人生命保険協会低〜中ロボット関連の傷害・生命保険拡張時に有用
ARM(Associate in Risk Management)The Institutes(米)中〜高国際的なリスクマネジメント資格。グローバル案件に有用
ドローン操縦士(DIPS 一等)国土交通省空中ロボット保険診断時の技術理解に有用低〜中

最初のステップとして損害保険募集人(一般)の取得が必須です。その後、顧客層と専門性に応じてリスクマネジメント実務士や情報処理安全確保支援士を組み合わせることで、差別化された専門性を確立できます。

必要なロボット技術知識

保険知識と並んで不可欠なのが、ロボット技術への理解です。「どのような仕組みでどのように動くか」を理解しなければ、リスクの正確な診断も補償の適切な設計もできません。

  • ロボットの基本構成:アクチュエータ(電動・油圧・空圧)、センサー(カメラ・LiDAR・力覚)、コントローラー、エンドエフェクター(ハンド・ツール)の役割と故障モード
  • AIと機械学習の基礎:強化学習・深層学習・コンピュータビジョンの概念。「なぜAIが誤判断するか」を説明できるレベルの知識
  • ROS(Robot Operating System):ロボットソフトウェアの標準フレームワーク。システム構成図を読み解くための基礎知識
  • ネットワーク・サイバーセキュリティ:ロボット制御ネットワーク(OT環境)のセキュリティアーキテクチャ。IT/OT融合のリスクポイント
  • 安全規格の基礎知識:ISO 10218(産業用ロボット安全)、ISO/TS 15066(協働ロボット安全)、IEC 62443(産業サイバーセキュリティ)の概要
  • ロボットの稼働データ読み方:ログデータ・可動率・MTBF(平均故障間隔)・MTTR(平均修復時間)の解釈。保険査定に直接活用

技術知識の習得方法

ロボット技術の基礎は、東京大学・大阪大学のオンライン講座(Coursera・edX)や、ロボット専門スクール(Robotics Academy等)で体系的に学べます。さらに実践的なのは、ロボットシステムインテグレーター(SIer)への半年〜1年程度の出向・業務委託を通じた現場学習です。実際の工場でロボットが動く環境に触れることが、保険アドバイスの質を格段に高めます。

ロボット保険の領域では、法規制の変化が補償内容・義務化の有無・責任の所在に直接影響を与えます。アドバイザーとして最低限把握すべき法令・ガイドラインを示します。

  • 製造物責任法(PL法):製品の欠陥による損害賠償責任を規定。ロボットメーカー・輸入業者に適用される。ソフトウェアアップデートが「製造物」に含まれるかについて解釈の整理が進行中
  • 民法709条(不法行為):AIの自律的判断による事故の場合、「誰が不法行為者か」を特定する際の根拠条文。運用者・所有者・メーカー三者の責任分担が重要
  • 労働安全衛生法:産業用ロボットの安全柵・インターロックの義務。ロボット稼働中の人間立ち入り規制と保険適用範囲の関係
  • 個人情報保護法・改正法:ヒューマノイドのカメラ・マイクが収集する個人データの取り扱い義務。違反時のペナルティと保険での補填可否
  • EU AI Act(欧州AIシステム規制):グローバル展開する日本企業に適用。高リスクAIシステム(医療・製造ロボット)への監査義務が保険審査に影響
  • 経済産業省「AI事業者ガイドライン」:国内でのAI利活用における安全基準。違反がない旨の保険告知に関連

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年収・キャリアパスと将来性

ロボット保険アドバイザーの収入は、所属する組織の形態(損害保険会社・代理店・コンサルティングファーム・独立)と専門性の深さによって大きく異なります。市場が成熟期に入る2030年代には、専門家の希少価値がさらに高まり、現在の水準を大きく超える報酬が期待できます。

所属形態別・年収レンジ

キャリアの入り口から独立まで、ロボット保険アドバイザーの年収レンジを整理します。

所属形態経験年数の目安年収レンジ(万円)特徴
損害保険会社(新人〜若手)0〜3年350〜500万円保険会社の基本給ベース。企業保険部門での経験積み上げ期
損害保険会社(専門部署・中堅)3〜8年500〜750万円ロボット・テクノロジー専門チームへの配属。大手企業担当
大手代理店・ブローカー(中堅)3〜8年600〜900万円インセンティブ報酬あり。顧客開拓力が収入に直結
リスクコンサルティングファーム5〜10年800〜1,500万円戦略コンサルとの協業。プロジェクト型。外資系は特に高水準
損害保険会社(管理職)8年〜800〜1,200万円テクノロジー保険部門の部長・執行役員クラス
独立系アドバイザー(個人)10年〜1,000〜3,000万円以上稼ぎ上限なし。顧客基盤と専門性の確立が前提

保険業界の基本給に加え、ロボット専門知識の希少性に対する「スペシャリストプレミアム」が乗ります。現時点では同等の保険経験を持つ一般の損害保険アドバイザーと比べて20〜40%高い報酬が期待できます。市場が本格化する2028〜2030年以降はこのプレミアムがさらに拡大すると見込まれます。

キャリアパス:一般保険からロボット専門へ

ロボット保険アドバイザーへのキャリアパスは複数ありますが、最も王道とされるのが「一般損害保険での実務経験→ロボット技術知識の習得→ロボット保険特化への転換」というルートです。

  • ステップ1(0〜3年目):損害保険会社または大手代理店に入社。企業保険(機械保険・賠償責任保険・事業中断保険)の基礎実務を習得。損害保険プランナーを取得。このフェーズでは「保険の言語」を徹底的に身につけることが最優先
  • ステップ2(2〜5年目):ロボット技術の自習・資格取得開始。機械安全技術者(TÜV)やRISSを目指しながら、ロボットSIer(システムインテグレーター)の担当顧客を積極的に引き受け、現場経験を積む
  • ステップ3(4〜7年目):社内でロボット・テクノロジー保険の専門担当に名乗りを上げる。または専門チームのある大手損保・外資系保険会社へ転職。ロボット関連の業界団体(日本ロボット工業会等)や展示会(iREX)への参加でネットワーク構築
  • ステップ4(7年目〜):リスクコンサルティングファームへの転職、または独立代理店・専門コンサルとして独立。ヒューマノイドが本格普及する2028〜2030年に最大の需要期が訪れる見通し

ロボット技術者からのキャリアシフト

ロボット工学・電子工学の技術者が保険・リスク領域に転換するルートも有望です。技術的な深さを活かして保険会社の「ロボット引受アンダーライター」または「技術アドバイザー」として採用されるケースが増えています。保険募集人資格を取得しなくても、技術コンサルタントとして活動できる形態もあります。

市場規模と専門家需要の見通し

ロボット保険アドバイザーの需要は、ロボット普及台数と保険制度整備の二つのドライバーによって決まります。

時期ロボット保険市場規模(日本)専門アドバイザー需要主なドライバー
2025〜2026年(現在)200〜300億円規模(推定)数百名(黎明期)製造業・物流の協働ロボット普及
2027〜2029年500〜800億円規模(予測)数千名規模に拡大ヒューマノイド商用展開、規制整備
2030〜2033年1,500億〜2,000億円規模(予測)数万名規模(専門職として確立)家庭向けヒューマノイド普及、強制保険制度化の可能性
2035年以降5,000億円超(楽観シナリオ)自動車保険市場に匹敵するインフラ職種ロボットフリートの一般化、AI損害査定の普及

ヒューマノイド向け保険設計の実務

ヒューマノイドロボットに特化した保険設計は、従来の産業用ロボット保険とは質的に異なる複雑さを持ちます。不特定多数の人間との直接接触、自律的な意思決定、ソフトウェアの継続的更新——これらの特性は補償範囲・免責事項・保険料算定において新しいアプローチを必要とします。

人身傷害補償の設計ポイント

ヒューマノイドが最も深刻なリスクをもたらすのが「人身傷害」です。保険設計では以下の論点を丁寧に整理する必要があります。

  • 接触事故の責任分担:ロボットが人に接触して怪我をさせた場合、責任はロボット所有者・オペレーター・メーカーのいずれか、あるいは共同責任か。保険では「所有者賠償」と「製造物責任」を分けてカバーするのが一般的
  • 人身傷害の補償上限額:軽傷(打撲)から重傷(骨折・脊髄損傷)・死亡まで幅広いシナリオに対応できる補償上限の設定。一事故1億円以上を推奨するケースが多い
  • 故意・過失の定義:AIの「判断ミス」は過失か否か。保険でカバーできる「偶発的な事故」とカバーできない「欠陥設計の継続的リスク」の区分
  • 被保険者の範囲:従業員のみか、来客・通行人・第三者まで含めるか。特に公共空間(ショッピングモール・病院)で稼働するヒューマノイドでは範囲設定が重要
  • 訴訟費用の補償:人身事故の訴訟は長期化・高額化しやすい。弁護士費用・鑑定費用を含む法的費用補償の付帯を強く推奨

データ漏洩・AIサイバーリスクの補償

ヒューマノイドはカメラ・マイク・各種センサーで常時環境データを収集します。この「センシングする身体」としての特性が、独特のサイバーリスクを生み出します。

  • 映像・音声データの漏洩:ロボットが収集した家庭内・オフィス内の映像・会話が外部に流出した場合の損害賠償・被害者通知費用・信用回復費用
  • 制御システムへの不正アクセス:ロボットを遠隔操作する制御サーバーへのハッキングにより、ロボットを使った物理的破壊行為が行われた場合のカバー
  • ランサムウェアによるフリート停止:物流・製造の複数ロボット同時停止による事業中断損失のカバー
  • 学習データの汚染(ポイズニング攻撃):悪意ある第三者がAI学習データを改ざんし、ロボットに危険な行動を学習させた場合。保険でのカバーは現状限定的だが、2026年以降の商品改訂で対象化が進む見通し
  • プライバシー規制違反の制裁金:個人情報保護法・GDPR違反による行政制裁金の一部補填(多くの保険でこの制裁金は免責だが、弁護士・対応費用はカバー可)

OT環境のサイバー保険の特殊性

ロボットが接続するOT(Operational Technology)ネットワークは、一般的なITネットワークのサイバー保険と異なる引受基準が適用されます。ロボット制御システムのネットワーク分離・パッチ適用サイクル・アクセス制御の状況をアドバイザーが詳細に診断したうえで保険会社に告知する必要があります。この告知の品質が保険料と補償内容に直接影響します。

AI誤作動リスクへの新しいアプローチ

「AIが誤った判断をした」というリスクは、従来の保険論理(偶発性・予測不可能性)との相性が必ずしも良くありません。AI誤作動のリスクに対してアドバイザーが取るべきアプローチを示します。

  • モデルバージョン管理の重要性:保険告知にAIモデルのバージョン情報を含め、重大なアップデート後に保険会社に通知する仕組みを契約に組み込む。アップデートによる動作変化が事故につながった場合の責任関係を明確化
  • 誤作動の「予測可能性」判断:既知の欠陥に対して修正を怠った場合は免責になりやすい。アドバイザーは定期的な安全テスト・ログ確認・パッチ適用の実施記録の整備を顧客に指導
  • テストデータ・評価指標の保存:事故後の保険査定に備え、導入前後のAI性能評価レポートとベンチマークデータを保存することを顧客に義務付ける
  • AIガバナンス体制の整備:保険会社によっては「AIリスクオーナーの指定」「定期的な安全審査の実施」を保険引受条件にするケースが増加。アドバイザーがこの体制整備を支援することで付加価値が生まれる

就職・転職市場と活躍の場

ロボット保険アドバイザーとして活躍できる組織は多岐にわたります。保険会社・代理店という従来の保険業界の枠を超え、ロボットメーカー・SIer・コンサルティングファーム・スタートアップと幅広い選択肢があります。どの組織を選ぶかによって、業務内容・年収・成長速度が大きく異なります。

主要な雇用形態と就職先

ロボット保険アドバイザーとして働ける代表的な雇用先を整理します。

就職先業務内容年収水準おすすめポイント
大手損害保険会社(三井住友海上・東京海上・損保ジャパン等)法人営業・企業保険設計・新商品開発500〜1,200万円安定性・ブランド力・研修充実。社内でロボット専門チームが急拡大中
外資系保険会社・ブローカー(AIG・Marsh・Aon等)大手製造業のグローバルロボット保険設計・ブローキング700〜1,500万円高年収・グローバル案件。英語力活用。テクノロジー保険の先進性が高い
リスクコンサルティングファーム(PwC・デロイト・EY等)企業のロボットリスク戦略策定・保険監査800〜1,800万円コンサルの論理思考と保険専門性の融合。プロジェクト型で多様な業界を経験
ロボットSIer・メーカー(FANUC・安川・川崎重工等)顧客へのリスク説明支援・保険パートナー管理500〜900万円ロボット技術の最前線に触れられる。保険×技術の希少人材ポジション
独立系保険代理店・FP事務所中小企業向けロボット導入時の保険コンサル個人差大(400〜2,000万円以上)自由度が高い。顧客基盤が収入に直結。中小ロボット導入企業の需要が急増中
InsurTechスタートアップロボット保険のデジタル化・AI査定システム開発500〜1,000万円+ストックオプション最先端の保険×テクノロジー。将来のIPO期待値あり。業務量は多い

求人の探し方・業界コネクションの作り方

「ロボット保険アドバイザー」という職種名で求人が出ることはまだ少なく、「テクノロジー保険」「企業リスクマネジメント」「産業技術保険」などのキーワードで検索するのが実態に合っています。

  • 業界展示会への参加:国際ロボット展(iREX・東京国際展示場、隔年)や日本ロボット工業会主催イベントで、保険会社のブース担当者・リスクコンサルタントと直接名刺交換できる
  • LinkedIn活用:「Robotics Insurance」「Technology Underwriter」「Industrial Risk Management」のキーワードで検索し、外資系保険会社の日本拠点担当者にアプローチ
  • 損害保険協会の研修・勉強会:協会主催の先進技術リスク研究会や新種保険勉強会は、この分野に関心を持つ同業者・保険会社担当者と繋がる場として機能する
  • ロボット業界団体加入:日本ロボット工業会の会員・賛助会員として参加し、製造業・ロボットメーカーとの接点を持つことで見込み顧客の開拓が進む
  • 専門メディアへの情報発信:ロボット保険をテーマにしたブログ・note・LinkedIn記事の公開が業界内での認知度を高め、問い合わせ流入に直結する

今すぐできる第一歩

ロボット保険アドバイザーへの転換を考えるなら、まず損害保険募集人(一般・専門)の取得と、機械保険・賠償責任保険の実務を扱える環境(損保会社の法人営業部門または代理店の企業担当)への就職・転職が最初の一手です。ロボット技術の知識は入社後に自習でも積み上げられますが、保険の実務経験は現場でしか得られません。