Fourier Intelligence社とは|リハビリロボットからヒューマノイドへの進化
Fourier Intelligence(傅利葉智能科技)は、2015年に上海で設立された中国のロボティクス企業です。創業者の顧捷(Zen Koh)氏はシンガポール出身で、南洋理工大学(NTU)でリハビリ工学の博士号を取得した後、医療用リハビリロボットの事業を開始しました。
同社は医療・リハビリロボットの世界トップ企業としての実績をベースに、2023年にヒューマノイドロボット市場に参入。汎用ヒューマノイドロボット「GR-1」を発表し、翌2024年にはフルスケール量産モデル「GR-2」を公開しました。リハビリロボットで培った人体の動作解析・力制御・安全設計のノウハウが、ヒューマノイド開発に直接活かされています。
Fourier Intelligenceの特異なポジション
ヒューマノイドロボット市場の多くのプレイヤーが「テック企業→ロボット参入」というルートを辿る中、Fourierは「医療ロボット→汎用ヒューマノイド」という独自の発展経路を歩んでいます。人間の身体に直接触れるリハビリロボットで培った力制御と安全設計のノウハウは、ヒューマノイドが人間と共存する環境で極めて重要な技術資産です。
Fourier Intelligence社の会社概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 正式名称 | 上海傅利葉智能科技有限公司(Fourier Intelligence) |
| 設立 | 2015年 |
| 本社 | 中国・上海市 |
| CEO | 顧捷(Zen Koh) |
| 従業員数 | 約1,000名(2026年推定) |
| 累計資金調達額 | 約2億ドル以上(シリーズD以降含む) |
| 海外拠点 | シンガポール、ドイツ(ミュンヘン)、米国 |
| 主力製品(医療) | ExoMotus(下肢外骨格)、HandyRehab(手指リハビリ)等 |
| 主力製品(ヒューマノイド) | GR-1、GR-2 |
| 海外展開 | 40カ国以上に医療ロボットを納入 |
Fourierの医療ロボットは世界40カ国以上、2,000以上の医療機関に導入されており、特に下肢外骨格ロボット「ExoMotus」は脊髄損傷患者のリハビリで高い評価を得ています。この国際展開の実績がヒューマノイドの海外販売にも活かされています。
Fourier GR-2の全スペック|53自由度の高性能ヒューマノイド
GR-2はFourierのヒューマノイド第2世代モデルで、前モデルGR-1から大幅な性能向上を遂げています。特に53自由度という関節数は競合他社を大きくリードし、人間に極めて近い滑らかな動作を可能にしています。
| スペック項目 | GR-1(第1世代) | GR-2(第2世代) | 改善率 |
|---|---|---|---|
| 身長 | 165cm | 175cm | +10cm(人間の平均に近づく) |
| 体重 | 55kg | 63kg | +8kg(強化フレーム) |
| 全身自由度(DoF) | 40 DoF | 53 DoF | +33%(手指の高度化) |
| 手指 | 簡易グリッパー(6 DoF/手) | 多指ハンド(12 DoF/手) | 指ごとの独立制御 |
| ペイロード | 25kg | 40kg(両手) | +60% |
| 歩行速度 | 1.5 m/s | 2 m/s | +33% |
| バッテリー駆動時間 | 約2時間 | 約3〜4時間 | ほぼ2倍 |
| プロセッサ | NVIDIA Jetson Orin NX | NVIDIA Jetson AGX Orin + 外部GPU連携 | AI処理能力大幅向上 |
| センサー | 深度カメラ×2、IMU | 深度カメラ×4、3D LiDAR、IMU、力覚 | 全方位センシング |
| 防塵防水 | なし | IP54相当 | 屋外利用可能に |
FSAシリーズ:Fourier独自のアクチュエータ技術
GR-2の心臓部は、Fourier独自開発のFSA(Fourier Smart Actuator)シリーズです。医療用外骨格ロボットで培われたトルク制御技術をベースに、ヒューマノイド向けに最適化されています。
- FSA-120(大型):股関節・膝関節用。最大トルク230Nm。120rpmの高速回転にも対応
- FSA-80(中型):肩関節・肘関節用。最大トルク80Nm。人間の腕の自然な動きを再現
- FSA-25(小型):手首・足首用。最大トルク25Nm。高い制御精度
- 共通特徴:統合型モーター+減速機+エンコーダ+ドライバ。モジュール式で交換・保守が容易
FSAアクチュエータの最大の特徴はインピーダンス制御に優れている点です。これはリハビリロボットで「患者の筋力に合わせて力を調整する」ために磨かれた技術で、ヒューマノイドが人間と安全に協働する際に不可欠な能力です。他社のアクチュエータが位置制御(目標角度への到達精度)に主眼を置くのに対し、FourierのFSAは力制御を得意とします。
40kgペイロード:産業用途への本気度
GR-2の両手ペイロード40kgは、現在市場に出ている主要ヒューマノイドの中で最大級です。
| ロボット | ペイロード(両手) |
|---|---|
| Fourier GR-2 | 40kg |
| Unitree H1 | 30kg |
| Apptronik Apollo | 25kg |
| Tesla Optimus Gen 2 | 20kg |
| Figure 02 | 20kg |
| Agility Digit | 16kg |
40kgのペイロードがあれば、製造業の部品運搬、物流倉庫のコンテナ移動、介護施設での移乗介助など、多くの実用シーンをカバーできます。Fourierが医療機器メーカーとして「人間の体を支える」技術を持っていることが、この高ペイロードの背景にあります。
GR-2の量産体制|中国製造業のスケールメリット
Fourierは2025年から上海郊外にヒューマノイドロボット専用の量産工場を稼働させています。年間生産能力は当初1,000台規模でスタートし、2027年までに年間10,000台への拡大を計画しています。
- 量産工場:上海市嘉定区に約15,000平米の専用工場。ロボットがロボットを組み立てる半自動化ラインを導入
- アクチュエータ内製率:FSAシリーズの内製率は約85%。コア部品を外部に依存しない体制
- サプライチェーン:長三角(上海・蘇州・杭州)の電子部品・精密機械クラスターを活用。部品調達リードタイムを最小化
- 品質管理:医療機器メーカーとしてISO 13485(医療機器品質マネジメントシステム)認証取得済み。これをヒューマノイドにも適用
- コスト目標:量産効果により1台あたりの製造コストを2年で40%削減する計画
医療機器品質がヒューマノイドに与える強み
ISO 13485は「患者の安全に直結する製品」に求められる厳格な品質管理基準です。この基準で製造されたGR-2は、他のヒューマノイドに比べて品質のバラつきが小さく、信頼性が高いと評価されています。特に人間と直接接触する介護・医療用途では、この品質管理の差が大きな競争優位となります。
ヒューマノイドの製造業への影響については製造業におけるヒューマノイドロボット導入と求人も参照してください。
ヒューマノイドロボット業界の求人をチェック
求人一覧を見るGR-2のリハビリ・介護への応用|Fourierの本領
GR-2が他のヒューマノイドと最も差別化される領域が、リハビリテーション・介護への応用です。Fourierの10年にわたる医療ロボットの経験が、この分野でのアドバンテージとなっています。
リハビリテーション分野での活用
- 歩行リハビリ支援:GR-2が患者の横に立ち、歩行を補助。患者の歩行パターンをリアルタイムで分析し、転倒リスクを検知して即座に支える。インピーダンス制御により「必要最低限の力」でサポートし、患者の自発的な運動を促す
- 上肢リハビリ支援:GR-2の腕が患者の手を取り、関節可動域訓練を実施。力覚センサーで患者の筋力・痛みレベルを推定し、負荷を自動調整
- 運動データ収集:53自由度の全身センシングにより、患者の運動パターンを高精度で記録。理学療法士のカルテ作成を支援
- 遠隔リハビリ:自宅にGR-2を設置し、遠隔地の理学療法士がリアルタイムで指導。過疎地域の医療アクセス改善に貢献
介護分野での活用
- 移乗介助:40kgのペイロードを活かし、ベッドから車椅子への移乗を補助。介護職員の腰痛リスクを大幅に低減
- 見守り・巡回:夜間の施設内巡回、入居者の転倒検知、体調変化の早期察知
- 生活支援:食事の配膳、洗濯物の運搬、ドアの開閉など日常生活動作(ADL)の支援
- コミュニケーション:会話機能を搭載し、入居者の話し相手やレクリエーションの進行役として活動
日本は世界最速で高齢化が進む国であり、介護人材不足は深刻です。2025年時点で約32万人の介護職員不足が予測されており、ヒューマノイドロボットによる介護支援は社会的な必要性が極めて高い分野です。
介護ロボット導入の法規制
介護施設でのヒューマノイドロボット使用には、安全基準の遵守が必要です。日本では厚生労働省「介護ロボット導入ガイドライン」に準拠する必要があります。詳しくはヒューマノイドロボットの安全規制まとめをご覧ください。
Fourier GR-2の日本展開の可能性
2026年時点で、Fourierは日本市場への本格参入を戦略的に進めています。医療ロボットでは日本の複数の病院・リハビリセンターに納入実績があり、この販売チャネルをヒューマノイドにも活用する計画です。
医療チャネルを活用した市場参入
- 既存顧客基盤:Fourierの医療ロボットは日本の約50の医療機関に導入済み。この顧客基盤にGR-2を紹介する営業が進行中
- 日本法人設立検討中:東京にFourier Japan(仮称)の設立を検討。技術サポート・営業体制の構築を計画
- 厚生労働省の補助金活用:「介護ロボット導入支援事業」(補助率1/2、上限100万円)の対象となる可能性が高く、導入ハードルを下げる
- 国際福祉機器展(H.C.R.)への出展:2026年の国際福祉機器展でGR-2のデモンストレーションを予定
日本のヒューマノイドロボット市場の動向については日本のヒューマノイドロボット企業30社や日本の人型ロボット開発の現状2026年版を参照してください。
日本市場での競合環境
Fourierが日本市場に参入する際の競合・協業先は以下の通りです。
| 企業 | ポジション | GR-2との関係 |
|---|---|---|
| トヨタ(TRI) | 自社ヒューマノイド開発中 | 直接競合(ただし用途が異なる可能性) |
| 川崎重工 | Kaleidoヒューマノイド | 産業用途で直接競合 |
| ソニー | aiboの延長線上の研究 | コンシューマー分野で間接競合 |
| サイバーダイン | HAL(医療用外骨格) | リハビリ分野で直接競合 |
| Unitree(TechShare経由) | H1/G1を日本販売中 | 研究用途で直接競合 |
| GITAI | 宇宙向けロボット | 技術領域は異なるが人材獲得で競合 |
特にサイバーダインのHALとは「リハビリ用ロボット」というフィールドで直接競合します。HALが外骨格(装着型)であるのに対し、GR-2は自立型ヒューマノイドとしてリハビリを支援するため、アプローチが根本的に異なります。両者が共存するシナリオも十分にあり得ます。
GR-2 vs 競合ヒューマノイド:スペック比較
GR-2を他の主要フルサイズヒューマノイドと比較します。
| 項目 | Fourier GR-2 | Unitree H1 | Tesla Optimus | Figure 02 |
|---|---|---|---|---|
| 身長 | 175cm | 180cm | 173cm | 167cm |
| 体重 | 63kg | 47kg | 63kg | 60kg |
| 全身DoF | 53 | 26 | 28+ | 40+ |
| ペイロード | 40kg | 30kg | 20kg | 20kg |
| 歩行速度 | 2 m/s | 3.3 m/s | 2 m/s | 1.2 m/s |
| バッテリー | 3〜4時間 | 2〜4時間 | 約8時間 | 約5時間 |
| 特徴的強み | 医療/介護/力制御 | 高速移動/低価格 | 量産/AI | OpenAI連携 |
| 価格 | $100,000+推定 | $90,000〜 | $20,000〜目標 | 非公開 |
GR-2の強みは53自由度と40kgペイロードという「体を使うタスク」への適性の高さです。一方、歩行速度ではUnitree H1に、AIプラットフォームとしてのスケールではTesla Optimusに劣ります。用途に応じた選択が重要であり、介護・リハビリ分野ではGR-2が最適解と言えます。
12機種の詳細比較はヒューマノイドロボット12機種比較をご覧ください。
GR-2の開発者エコシステムとオープンプラットフォーム戦略
FourierはGR-2を「研究者が自由に使えるオープンプラットフォーム」として位置づけ、SDKの公開と開発者コミュニティの育成に力を入れています。
- Fourier SDK:C++/PythonベースのSDK。関節制御・センサーアクセス・歩行制御のAPIを提供
- ROS2対応:ROS2 Humbleに完全対応。標準メッセージ型でのトピック通信をサポート
- Isaac Sim連携:NVIDIA Isaac Sim上にGR-2のデジタルツインを構築可能。Sim-to-Real研究を支援
- FFTAI GRX:Fourierが開発するヒューマノイドOS。モジュール式のタスク実行フレームワークで、歩行・把持・ナビゲーションのモジュールを組み合わせてタスクを構築
- 開発者プログラム:大学・研究機関向けに割引価格とテクニカルサポートを提供する「Fourier Academic Program」を展開
特にFFTAI GRXは、単純なSDKにとどまらず、ヒューマノイドの行動をモジュール化した「ロボットOS」としての野心的なプロジェクトです。これにより、研究者は低レベルの制御を気にせずに、高レベルのタスク設計に集中できるようになります。
Fourier Intelligenceの資金調達と成長戦略
Fourierは設立以来、複数ラウンドで合計2億ドル以上を調達し、急速な事業拡大を続けています。
| ラウンド | 時期 | 調達額 | 主要投資家 |
|---|---|---|---|
| シリーズA | 2018年 | 約$10M | Vertex Ventures |
| シリーズB | 2020年 | 約$30M | SoftBank Vision Fund 2 |
| シリーズC | 2022年 | 約$50M | Samsung Venture等 |
| シリーズD | 2024年 | 約$100M+ | 国有資本+海外VC |
特にシリーズDではSoftBank Vision Fundに加え、中国の国有資本が参加しています。これは中国政府がヒューマノイドロボット産業を国策として推進していることの表れです。調達した資金はGR-2の量産設備、AI研究チームの拡大、海外市場の開拓に投じられています。
ヒューマノイドロボットスタートアップの資金調達動向についてはヒューマノイドロボットスタートアップの資金調達2026年版も参照してください。
Fourier GR-2に関連する求人・キャリア
Fourier Intelligenceは急成長に伴い、上海本社・海外拠点で積極的な採用を行っています。日本市場参入に際して、日本語人材の需要も高まっています。
| 職種 | 勤務地 | 年収目安 | 求められるスキル |
|---|---|---|---|
| ロボットAIエンジニア | 上海・シンガポール | 800〜2,000万円(現地水準) | 強化学習、コンピュータビジョン、ROS2 |
| メカニカルデザインエンジニア | 上海 | 600〜1,200万円 | SolidWorks、アクチュエータ設計 |
| 医療ロボットスペシャリスト | 上海・ミュンヘン | 700〜1,500万円 | リハビリ工学、臨床経験 |
| 日本市場開拓マネージャー | 東京(予定) | 800〜1,500万円 | ロボット/医療機器営業、日中バイリンガル |
| フィールドアプリケーションエンジニア | 各国 | 500〜1,000万円 | ロボット導入支援、技術サポート |
特に注目すべきは「日本市場開拓マネージャー」のポジションです。Fourierが日本法人設立を検討する中、日本の医療・介護市場に精通し、かつ中国語(または英語)でのコミュニケーションが可能な人材への需要が高まっています。
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